僕はこの名を甚く気に入った。「ランゲルハンス島」
このあいだ、僕は1型糖尿病と診断された。
かれこれ2ヶ月前くらいから、異常な喉の乾き、夜間のこむら返り、体重減少、脚の痺れ、という症状に悩まされていた。
ネットで調べるとどれも糖尿病の症状だった。
普段は病院にいかない僕だが、妻の勧めもあり血液検査をした。すぐに1型糖尿病ということがわかった。
初めて知ったが、糖尿病には1型と2型があるって話だ。糖尿病なんてメタボのおじさんがなる病気だろうと思ってたが、僕は痩せ型だし、まだおじさんって歳でもない。
寝耳に水とはこのことだ。
1型糖尿病は所謂、生活習慣病の2型糖尿病とは違い、膵臓からインスリンという血糖値を下げる成分がでなくなることで、血糖値が下げられなくなる病気だ。
今のところ膵臓の一部を移植する以外の方法では完治はしない病気らしい。
つまり、高血糖状態が続いている。
高血糖で力が増す訳ではないが、わかりやすく言うと常に3倍界王拳を使っていると思ってもらえればいい。少しは危険さが伝わるだろうか。
新年明けましてとんでもないお年玉だろう。
おみくじは確かに大吉だったはずだが....
治療法として一般的なのは血糖値を下げるためにインスリン注射を打って、血糖値を正常な範囲でコントロールしていく方法だ。
僕の場合は、毎食前と就寝前の計4回打つことになっている。
患者の割合では、1型糖尿病は糖尿病の全体の5%程で日本だとかなり少ない病気らしい。そして、特に子供や若者の発症が多いそうだ。
これは言える。子供の時じゃなくて良かった。
僕の場合、症状が出てから2〜3ヶ月で診断まで至ったが、中には1週間くらいでインスリンが出せなくなってしまう人もいるというから空恐ろしいものである。
こうして、僕はこれから死ぬまでインスリン注射を打つことになった訳なのだが、冷静に受け止めることが出来ているから、自分でも不思議なくらいだ。
むしろ余命宣告ではなくてホッとしている。
糖尿の気がある親父は言った。
「俺のせいかも知れない。ごめんな。」
聞くところによれば、この病気は遺伝ではないらしいので誰のせいでもない。
具体的には膵臓内の「ランゲルハンス島」の一部の細胞が壊れたことに起因するらしい。
とにかく、僕はこの名を甚く気に入った。
「ランゲルハンス島」
この溢れ出るセンスには脱帽だ。
君の名は生涯忘れないことを誓う。
僕にとってこれは人生で初めての大きな病気だ。初めてにしては治らない病気だなんていきなりハード過ぎやしないかとも言いたい。
「そんなこと言っても仕方がない」
確かこんなセリフで有名な役者がいたはずだ。
確かビルゲイツも言っていた。
「人生は公平ではない」
ビルゲイツがそう言うならば間違いないだろう。
「配られたカードで勝負するっきゃない」
スヌーピーも同じようなことを言っている。
僕は、考える他に使い道がない入院中の2週間で、病気も立派なアイデンティティの一部だと考えるに至った。
なぜなら、この病気にならなければかつての僕では持ち得なかった新しい見方で物事を捉えることができ始めているからだ。
不意に、強烈な当事者意識を持つことを強要されたと言った方が適切かもしれない。
その意味ではポジティブな人生経験だ。
スヌーピーの 配られたカード論で言えば、この病気はスペードのAだという気がしてならない。
カードの使い道はまだ分からないが。
きっと切り札にできるだろう。